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2025年9月の記事一覧

085_本分(25.9.18)

 五十嵐貴久さんの著書『鋼の絆』は、消防学校を舞台とした物語。研修の最終面接で教官が課した設問は、「あなたは、母親と恋人と一緒に海でボートに乗っている。突然海が荒れ、二人が同時にボートから落ちた。だが救えるのは一人だけ。どちらに手を伸ばすか?」というもの。考え得るのは、①母親、②恋人、③両方の3パターンくらいです。ただし、③は「救えるのは一人だけ」という条件に合致しません。

 解答は、「消防士の本分は、事故や火災を未然に防ぐことにある。危険が予想される状況で海にボートを漕ぎだすことを止めるのが我々の仕事である」という、設問自体に少し無理を感じさせるもの。それでも、私たち教員と似ている気もします。指導する中で単に答えを教えるのではなく、知り得た既習事項や考え方を駆使して、新たな課題解決する力を求めていますから。

 8月中旬の歌舞伎町雑居ビルの火災で、消防士2人が亡くなりました。火災による殉職は滅多にあることではないようです。しかし、狭い非常階段や消火装置の機能不全ほか、想定できなかった状況があったことを想像してしまいます。これは、先述の著書シリーズ読んで、火災現場に赴く消防士の過酷さと決意に、小説を通して間接的にでも触れたからです。たとえ本や映像であっても知識を蓄えるということは、想像力を豊かにし、創造力を掻き立てる原動力になるように思います。

 子供たちが学ぶ学校や社会も一緒で、様々な出会い(出合い)がある中で、自分の行動の選択肢を広げることにつながります。自分がどうしたいか、どうなりたいかを自己決定するための判断を後押しする力を育てることが、私たち教職員の本分と言い換えることもできそうです。自分の生活を豊かにする勉強だったら、もう少し頑張ってみようかなって思えそうな気がします。

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