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114_秋のにおい(25.11.4)

 タンスの抽斗や衣装ケースの中身も冬物に入れ替えて、来たる寒さに備える11月。中に入っていた防虫剤も新品に交換です。この防虫剤は昔、天然のクスノキから抽出された成分の樟脳(しょうのう)や化学合成のナフタリンが中心でした。今でも公共の乗り物などの中で、鼻にツンとくる防虫剤の匂いを感じることがあります。「そのスーツは、今シーズン初めて袖を通すのだな」と、何となくほんわかした気持ちになるのです。

 寝具の毛布も1枚増えました。お日様の暖かさをいっぱいに吸いこんだ布団。あるいはある程度の重量感に包まれながら、秋から冬へと移ろう季節の香りを布団から感じます。このように、匂いから秋を感じることもあるものです。

 では、秋の匂いは他に何があるだろうと思い巡らせます。心誘われるキンモクセイの香りは、その代表というか筆頭に挙げられそうですし、逆に銀杏は、食べれば美味しいけれど臭いイメージしかありません。市川霊園のイチョウ並木を歩いて、雌雄判別しながらバケツに集めて、臭いと格闘して洗、乾燥させて食べたことも何度かあります。

 記憶の奥にある銀杏の臭さといえば、国府台陸上競技場と体育館の間の大樹です。陸上大会の計時係にでもなろうものなら、後ろからプ~ンと漂う匂いに顔をしかめながら仕事をしなければならなかったわけです。今はなくなってしまい懐かしい反面、鼻が曲がることはなくなったので良かったのかもしれません。

 硫黄のにおいに包まれていた奥日光の一晩は、6年生の記憶のどの部分に刻まれたのでしょう。